誠は、正門の手前にあるベンチ誰かが座り、うつむいているのを見つけた。
どうやら男子生徒らしく、彼を包む空気はそこだけ重苦しく真っ黒に近いものだった。

声をかけるべきか否か迷っていると、足音に気づいた男子生徒は顔を上げ、誠と目が合った。


「鹿島先輩…?」

「っ!?」


ベンチに座っていたのは、男バス3年エースの鹿島翔里だった。


「…あの、どうかしたんですか?」

「あーいや…。」

「何かあったなら聞きますよ。あ、何もなかったらすみません。迷惑ですよね。」

「…ここ、座って。」


誠は話しかけて数秒、自ら話しかけたことに少し恥ずかしくなった。
翔里は隣のあいている場所に軽く手を乗せ、誠に座るよう指示した。

なんとなく発した言葉に応答されるとは思っていなかった誠は少し戸惑ったが、あまり関わらない先輩との交流に少なからず期待してしまい、ゆっくりと隣に腰を下ろした。


「実は…今日の練習でアキレス腱が切れた。」

「え?…アキレス腱が切れたって…。」

「今はここに先生に運んできてもらって親の迎えを待ってるとこ。」

「そんな…バスケは、部活はどうなるんですか?」

「…次の試合には、間に合わない。」

「そう、なんですね…。」


あまりにも急で、誠は聞いてはいけなかったような雰囲気を感じた。
自分以外にももっと話を聞かなければならない人間がいたのではないか、先輩と何の関わりもない自分が聞いてしまったことに、今更罪悪感が込み上げてきた。


「なんかごめん、こんな話して。」

「いえ、こちらこそ…すみません。」

「何で謝るの、女バスだって頑張らないとでしょ。八木さんのこと、3年の女子みんな褒めてたから、頑張って。」

「ありがとう、ございます。」

「あ、父さんの車来たから帰る。じゃあね。」

「あっあの!!」


誠は、なぜ自分が翔里を引き止めてしまったのかを理解できなかった。
慰めたいだとか、元気付けたいとか、そんな気持ちでないことは確かだった。
体の中の何かが動いて、いつの間にか声が出ていた。

ただ、それだけだった。