練習試合を終え、カクカクと笑っている膝に力を入れて歩く。
膝が笑うほど試合で走り回り、誠は体の芯からヘトヘトになっていた。
それと同時に、3年生と一緒にベンチ入りできたことが心の底から嬉しかった。

今日もかなりいいプレーができていたのではないか、しかしここがよくなかった、と1人反省会。


「ただいまー。」

「おかえり誠、お疲れさま。」

「ありがとお母さん。風呂入ってくるね。」


誠の母は周りの家庭に比べれば優しい方だ。
誠の話がいくら長くとも最後まで頷いて聞いてくれる。
父は無口であまり喋らない。そんな父のたまに出る笑顔を見るのが、誠にとってのささやかな嬉しさなのである。

「あ、誠おかえり。」

「お兄ちゃん、ただいま。」


そして兄。
少しでも家族のそばにいたいという思いから、家から電車で通える大学に通う大学1年生。
年に1、2度くらいしか喧嘩はしないし仲直りも早い。

誠にとってひとつも文句の無い家庭だ。
優しい親と兄に恵まれて、学校生活でも何ひとつ不満のない生活。


そんな生活が、いつまでもいつまでも続けばいいと、誠は熱いシャワーを浴びながら考えていた。


『まこちゃんはさ、恋人と友達のどちらかしか助けられないとしたら、どっち?』

ふと誠の脳裏に浮かんだのは、毎日のように成海からかけられた質問だった。

今こそ友達だと即答できるが、もし自分に恋人ができて、その人のことを本当に好きになってしまったとしたら、恋人だと答えるようになってしまうのではないか。

そんな考えを張り巡らせているうち、誠は

「そもそも彼氏作らないからいっか。」

という考えに辿り着いた。
彼氏がいない高校生活だって十分楽しめるはずだ、と自分に言い聞かせ、かいた汗がシャワーに流されていくのを感じた。