やはり私では、常に他人想いな江波くんには、なり切れないようです。

私は、私でしかありませんでした。

しかし、それで十分だ、と彼は言うのです。

今、私と一体となっている彼です。

今日は、実際に言葉としては、現れていません。

しかし、私にはリョウさんが、そう伝えようとしていることがわかるのです。

戯言だと、誰に言われようとも、私は一切構いません。

私にしか聞こえないのですから、仕方のないことです。

可笑しいのは、私なのかもしれないのですから。

曲の最後のロングトーンに、気持ちよく魔法のようなビブラートをかけ…

確と、この目で終止符を見送ると、かなり近い位置から、手を叩く音が聞こえてきました。

それは、5人分の拍手であったようです。

驚きつつ、私はその一人一人の顔を、確認いたしました。



「野球部の皆さん、マネージャーさん…江波くん」

「やっぱり、江波は特別扱いなんだね」

「どうされたのですか?このようなところ、普段は誰も居らっしゃらないと思ったのですが…」



私が問うと、マネージャーの彼女が、江波くんを親指で差し、言いました。



「こいつがなんか音が聞こえるっていうから、音を手繰り寄せて、ここまで来たの」

「俺らは、なんか面白そうだな、と思ってついて来ただけっす」

「そうっす」

「まあ、ありがとうございます」



私は、本当に嬉しく想っております。

こうして関心を持ってくださる方が現れた、この真実だけで私には、大きな成果なのでございます。