無表情のまま、ミルクココアを転がし続ける江波くんを、私は見つめておりました。

すると、不意に江波くんもこちらを向き、目が十分に合ったのです。

しかし直ぐ様、目を逸らされてしまいました。

最初の頃こそ、傷付いてはいましたが、今はもう平気です。

そのようなところにも、愛しく感じるのです。

今日のミルクココアで、確信いたしました。

江波くんは、可愛いらしい方です。

そのようなことを考えていると、江波くんが何かを言おうとしていました。



「あ、あのー…」

「はい」

「部活、行ってないんですか?」



未だに目は逸らされてままではありましたが、その江波くんの言葉に私は動揺してしまいました。

何と答えれば良いものか、私自身の中で迷いがあったのです。

しばらく私は、黙り込んでしまいました。

すると、江波くんはいつもの通りにして、私のその様な様子を見ては、慌ててらっしゃいました。

申し訳なく思ってはおりますが、薄暗い感情が込み上げてしまい、自身でも制御することが出来ないのです。

江波くんは私を見兼ね、私の持つ缶に手を触れられました。

私が少し驚き、缶を持つ手の力を緩めてしまうと、愛らしいオレンジのキャラクターの描かれた缶が宙に浮いたのです。

いえ、そうではありません。

江波くんに、持っていかれたのです。

そして、江波くんは缶の口を開けると、再び私に差し出したのでした。

彼とは、このような気遣いをさりげもなく、出来てしまう方と知って、私のときめく心は止もうとしません。

江波くんが私の表情を窺う様にして、おっしゃいました。



「まあ…まだ時間は、いくらでもあるので…」



そう言うと、またお互い黙り込んでしまいました。

私が話せる様になるまで、それまで一緒に居てくださる、ということでしょうか。

それでは、このまま待たせてはいけない、私はそう思いました。

さて、では一言目は、何と切り出しましょうか。