顧問の運転する野球部専用バスは、ようやく学校に到着した。
できることならば、このまま延々とバスに揺られていたかった。
もう何も考えられなかった。
考えたくはなかった。
俺たちの夏が終わった、なんてことは考えたくはなかったのだ。
帰りのバスの中は、たった今でさえ、馬鹿騒ぎしていた行きとは比べものにならない程に、静まり返っている。
この後にあるであろう反省会は、陰気な雰囲気となることは、まず間違いない。
そもそも俺自身が、その一人となる。
何と言ったって、これで俺たちが高校で野球漬けになる日々は、閉ざされてしまったのだ。
再挑戦できる機会など、もう二度とない。
おまけに、初めての状況にも遭遇してしまった。
ベスト4にまで勝ち上がってしまったのだ。
うちのようなほぼ、無名校が。
夢物語のような甲子園が、脳裏をちらついていたのも事実だ。
これではあまりにも悔しくて、仕様がなかった。
前向きに事を考えてみれば、最後の最後でよい体験ができた、とも言える。
これ程にも勝ち進めたのは、3年目にして初めての快挙だと言ってもいいだろう。
後輩たちには、これを次回の結果へと繋げていってほしい。
もう俺たちは、次の代へ託すしか他にないのだ。
だからこそ、遣る瀬無い。
現状を受け止めることはできても、気持ちだけは絶対に、ついて来ようとはしてくれないのだ。
ようやく、バスの座席から立ち上がる気になった。
バスから降り、荷物の運搬を始める。
トランクから荷物を引きずり出し、後輩へと指示する。
たった今は、体を頭を動かすなりしていないと、情けないことに精神を保つことができないのだ。
続いて指示を出そうとした時、後輩たちの隙間から、不意に見えたものがあった。
それは、黒いケースを肩から背負う姿だった。
それは間違いなく、深海魚の君である。
しかし、俺というという奴は、彼女の姿を見て見ぬふりしてしまった。
今はとてもじゃないが、こんな顔を見せることなど、できるはずがなかった。
今日の結果だけで、頭が胸がはち切れそうなのだ。
Scene 9 越えるべき己と現