翌日の土曜日は、二日酔いと睡眠不足で一日グダグダだった。
ところが胃の奥に溜まったもやもやは日曜日になっても月曜日になっても収まらない。

……これは、二日酔いではないのか。

胃に重みを感じながら出勤すると、今朝も社長が元気にエントランスの清掃に精を出していた。
社員全員が頭を下げて通過していく。

「社長、おはようございます」

「はい、おはよー」

その中に、先日じっくり観察したばかりの背中を発見した。
課に着く前なので油断していたのに、いきなり遭遇してしまい、その数m後方で重い足が完全に止まった。

「おはようございます」

「あ、湊くん。最近どう?」

社長に呼び止められ、湊くんは相変わらず愛想のない顔と声で向き合っている。

「だんだん調子が戻ってきました」

「そう。それはよかったね」

「ありがとうございます」

せっせと掃除に戻る社長の横を通り過ぎた湊くんが、受付前で再び足を止めて、落ちていた何かを拾い上げた。
その隙に、と私は湊くんの横を通り過ぎようと足早に歩き出す。
ところが、湊くんが何かを探してキョロキョロしたせいで、目が合ってしまった。

「あ、おはよう」

さすがに無視するわけにいかず、気まずい空気を放ちながら挨拶をした。
湊くんは私のそんな態度に気づいているのかいないのか、いつもと同じ無表情でつかつかと近づいてくる。

「おはよう。はい、これ今井さんに」

うつくしい左手で、私に小さなピンク色の花を一輪差し出した。
湊くんの目を見たまま条件反射で受け取ると、その目がわずかに弧を描く。

「これ、ゴミじゃない!」

受付にある装花から落ちたのだろう。
花の付け根からポッキリ折れているから花瓶には戻せない。
だから湊くんもゴミ箱を探していて、見つけたのが私。
それが事実である証拠に、渡した途端逃げるようにして先を歩く背中が、笑いを堪えて揺れている。
私は眉間の深い皺と共にそれを見送った。

湊くんは知らないみたいだったけど、私は受付の内側にゴミ箱があることを知っている。
そこに捨てようと一歩踏み出して、結局そのまま課に向かった。
手に持ったままのピンクの花は弱々しく、きっとほどなくしぼんでしまうだろう。
そう思うのに、飲み終わったコーヒーの紙コップをすすいで水を入れ、その花を浮かべた。

「何やってるんだろうね」

捨てられなかった。
私にくれたものではなく、ただゴミが邪魔だっただけだとわかっていても。

情緒の欠片もない紙コップから顔を上げると、今日も重苦しい前髪とメガネで顔が隠れた湊くんが見える。

「嘘みたい。湊くんだよ?」

うれしいような、悲しいような、私の意志をすべて無視して全身を支配してしまう、この気持ち。

━━━━━私、湊くんが好きになってしまった。