「そう、ならいいんだけどさ」
「おう」
それだけ言って私に背を向けた藤井。
その背中には手を伸ばせばすぐにだって届くのに、どんなに手を伸ばしても藤井の心には届かない。
「藤井」
「ん?」
「……ううん、何でもない」
この期に及んで、藤井離れするのを躊躇ってしまう。藤井を呼んで、当たり前に返ってくるこの声が、いつか誰かのものになってしまう前に
藤井への気持ちを吹っ切れたらいいな。
「夏乃……」
「ん?」
「朝は?」
「へ?」
「朝は迎えに行ってもいいのか?」
「……っ、うん」
……あぁ、好きだなぁって。
こんな些細なことに、いちいち藤井をドンドン好きになる私を誰か止めてほしい。
「じゃあ……しゃーねぇから、迎えに行くか〜。ちゃんとジャージ履いて待っとけよ?」
「うん!」
こんな些細なことに、壊れそうなくらいうるさい私の心臓が、いつか壊れてしまう前に
お願いだから忘れさせてよ、藤井。


