「雛、なんか先生に話あるんじゃねーの?」

「え」


こ、このタイミングで何を言いだすの恭平は!
もしかして、今から“言え”ってこと……?


「あ、俺いたら言えねーか。じゃあ俺帰ります。先生さよーなら」


あああ、俺いたら〜とか余計なこと言わないで!


「ああ。気をつけて帰るんだぞ」


のんきな先生の声に送り出された恭平が、あたしの方に近づいてくる。そしてすれ違いざまに、ぽんと肩を叩かれて、耳打ちされた。


「さっきの、“振られてこい”っつーのは、冗談だから。……応援してる。がんばれ」


そうしてふっと気配が離れると、急に心細くなったあたしは恭平のブレザーの裾を咄嗟につかんでしまう。


「……雛?」


本当は、自分でもわかってる。先生にとってあたしはいち生徒でしかなくて、この気持ちが報われることはないって。


「あ、あのね……ちゃんと、言うから、だから……」


だから、何だというのだろう。
ただ、恭平に先に帰って欲しくなかった。

助けを求めるように恭平を見つめると、彼は安心させるような笑みを向けてくれた。


「靴箱んとこで待ってる」


恭平はそう言い残し、教室を出ていった。