そんな思いで恭平からぷいっと顔を背け、教室を出ようと制服のスカートをひるがえしたとき。
――ガラ、とドアが開く音がして。


「……あれ、まだ残ってたのか。そろそろ帰らないと、夕立になるって天気予報でやってたぞ」

「せん、せ……」


まさかの本人登場に、ドキ、と胸が鳴った。

帰ろうとしていたはずの足が止まり、教卓へ向かっていく先生の姿を自然と目で追ってしまう。

彼は担任であり、化学の授業を担当している、北村先生。

すらりと背が高くて、優しい瞳で笑う、すてきな大人の男の人だ。

見た目はイケメンだけど、化学のことになるとちょっとマニアックだったり、それから少し忘れっぽいところがなんだか可愛くて、いつの間にか、特別な存在になっていた。


「あっ。やっぱりここにあったのか、眼鏡」

「先生いつも眼鏡がないないって言ってね? もう鈴でも付けときなよ」

「いやいや、そしたら授業中にリンリン鳴ってみんな集中できないだろ?」

「うーん。たしかに。つか見た目的にも笑い止まんねーかも」

「……だな。変な祈祷師みたいだ」


他愛のない話で笑いあう北村先生と恭平をぼうっと見ていたら、恭平の視線が急にあたしをとらえて、「そういえば」と切り出す。