今年もまた、大キライな夏がやってきた。

夏なんて、何もいいことがない。

暑いし、蝉はうるさいし、汗かくし。……先生には、会えなくなるし。







「……好きです」

「うん。俺もだよ雛(ひな)ちゃ~ん♪」

「もうっ! ふざけないで!」

「だってこんな練習意味ねーだろ。じっさい本人目の前にして言えなきゃ」

「そりゃ、そうだけど……」


窓の外に入道雲が広がる、高校二年の夏休み前。場所は、放課後の教室。

あたしは腐れ縁の幼なじみ、恭平(きょうへい)を相手に、告白の予行演習をしていた。

教卓に置かれた先生の眼鏡と、椅子に掛けっぱなしになっていた白衣をこっそり借りて、すっかり化学教師っぽくなっている恭平だけど……結局、中身はデリカシーのない恭平のままだ。


「どーせ迷惑がられるだけなんだから、さっさと言ってフラれてこい」


腕組みをしてエラそうに命令され、むか、と怒りが湧く。


「ひっどーい! もういい。恭平なんかには二度と相談しません!」

「ああ、そーしてくれ」


白衣を脱いで眼鏡も外し、それぞれ元の場所に戻す恭平の動作あからさまにかったるそうで、さらにムカつきが募る。

なによ。そんなに嫌なら最初から引き受けなきゃいいでしょ!