「おい、希依」


そんな私の腕を、今度は凰成が掴んだ。


「あ、凰成」

「どこ行くんだよ。
俺ここにいるんに」

「あ、ごめん
寂しいから、私が代わりにバイオリン弾いてくるよ」

「は!?」


凰成はすっごい驚いた顔をした。
まぁそりゃそうでしょうね。

だって私、今日は凰成の彼女としてここに招待されてる身だもん。


「やめなさいよ!
それこと、吉良家が笑いものになるわ」


そこに、追いかけてきた一華さんもやってきた。


「希依さんがそんなことしなくていいのよ?」

「そうだ。今代わりの者を呼んでいるのだから」


一華さんだけでなく、凰成のご両親にも止められる始末。
さすがにこれはなしかなぁ…って思ったけど


「…でも、せっかくのクリスマスです。
この数分が、雰囲気を暗くしてしまう気がしませんか?

代わりの方が来るまでの繋ぎをさせてください。
せめて、ここにいる方が先ほど倒れた方の心配をするのではなく、パーティーを楽しめるように
そのお手伝いをさせてください」


私はそういって、横にある小さなステージに向かった。


「これ、私に弾かせてください」


そこにいたチェリストにそう声をかけ、バイオリンを手に取った。
そこには楽譜がなかったから、なんの曲を演奏する予定だったのかはわからない。

だからもう、私の知ってる曲で挑むしかなかった。


私の知ってる曲で、まったりとしたこの空間に合う音楽…


「カノンは、いかがですか?」

「え?」


チェリストの方がそういうので、私はその目を見て軽くうなずいたら、深いチェロの音が響いてきた。