私と結婚してください。




中に入ると、名前を言わずとも席へと案内され、長い廊下を歩いてひとつの襖を開ければいつもの兼城ファミリーがもうそこにはいた。


「遅くなり、申し訳ありません」

「いえ、こちらも今到着したところですので」


そんな親の挨拶を横目に、私も兼城夫妻に頭を下げた。


「あら、希依さん
ずいぶんと雰囲気が変わられましたね?」

「本当だ。とってもきれいになられて」

「ありがとうごさいます」


ま、あなたたちのためにこの格好をしてるわけではないんですけどね。
…まぁ、ご両親はまぁ問題なく接するし、嫌でもないんだけど。


問題はこいつよ。


「もしかして俺に会うの楽しみにしてたの?」


…んなわけないだろ、ったく。


「幸太郎は本当希依さんが好きだな」


私は全然好きではありませんけどね。


「希依、座ろう」

「あ、うん」


お父さんから座り、私は下座の一番手前。
下座とか関係なしに、気分が悪くなったらすぐお手洗いへと行けるようにね。

普段はほとんど行かないけど、こいつと会うと何回もお手洗いに立つのでね。目の前から消えたくて。




それから食事をオーダーし、とりあえずは無難な親同士の仕事の話から入る。

ま、うちの親は所詮下請けに過ぎないんだけど。


「再来年に新しく老人ホームを建てようと思ってまして」


なんて。

その間はひたすら食べるだけ。無言。ひたすら無言。
こちらからこいつに話しかけることは決してない。


話しかけられないように、黙々と食べるだけ。


…ま、そんな私のアピールはこいつに通ずるわけもなく

「希依さん、最近綺麗になったね」

毎回容赦なく話しかけてくる。


「ありがとうごさいます」

「ますます好きになっちゃうよ」


…気持ち悪い。

食べ物を口にいれた状態でしゃべらないで。
食べ物が飛ぶでしょ。
咀嚼音も気持ち悪いのよ。