私と結婚してください。




家に入ると久々に会ったお父さんは高いスーツに身を包んで、そりゃもう準備万端でした。


「お、おかえり」

「うん」

「学校最近どうだ?」

「んー、まぁ普通。楽しくやってるかな。
神楽制度もすっかり身について今じゃそれが当たり前になってるし」


ご主人様を起こすところから始まり、服の用意に学校の用意に食事の用意。

ご主人様が勉学に励むために最大限のサポートをすると共に、世間の感覚を身に付けてもらうために厳しいところは厳しく、「普通」を知ってもらうために外出もする。


文字にするとどこまでも人身売買だなと思ってしまうけど、やってると尽くすのも悪くないなと思っちゃうんだよね。
私にしか見せない顔だったり、私しか知らない不器用なとこだったり、なにかあったら頼られる立場だったり、今までに味わったことのないことばかりなんだ。


「吉良くんとも、うまくやってるか?」

「そりゃもう、吉良お坊っちゃまは世間知らずで大変だけど
まぁ最近は違和感なく暮らしてるかな」

「なんだそれ」

「今の目標は部屋に入るときはノックをさせる!」

「……そう、楽しそうでよかったよ」


お、おう。
お父様呆れてらっしゃるな?

いやでもあいつはもっとひどかったんだからな。
今はだいぶまともだぞ。


「ねぇ、そんなことより行かなくていいの?」

「あ!もうこんな時間じゃないか!」


お母さんの声かけに、お父さんはハッとして立ち上がった。


「…もう行くのか」

「まぁそんないやな顔をするなって」

「嫌だよ!あいつ本当気持ち悪いもん!」


あいつのご両親はまぁ…いい人ってまではいかないけど、まぁ普通。
でもあいつはまじで気持ち悪いんだもん!!

食べ方も気持ち悪いし、笑い方も気持ち悪いし…
性格も横暴だしさ…


「…これで話が進んだりしないよね?」

「こちらから進めることはない。希依もまだ高校生だし、さすがに卒業前に決めたりするつもりはない。

…向こうがどう思ってるかはわからないけどな」

「…そうだよね。向こう次第だよね」


結局、立場がお父さんの方が下なんだ。
結局下請けにしか過ぎないんだよな、うちの会社って…


難しいことはわからないけど、結局あいつの方の会社が権力もってんだよな…


「とりあえず向かおう」

「どこのレストラン?」

「希依の学校の近くの料亭だよ」

「おぉ、和食。初めてだね」


さすがにお箸なら…あいつもまともな食べ方してくれるよね…?
さすがにこぼさないよね…?