「これも以前も言いましたが、私が希依さんと交遊関係を築きたいと思ったのは、あなたがとても熱心に姫の仕事を全うしようとしていたからです。
そして吉良さんといるあなたが本当に楽しそうだった。
ですが、神崎さんの場合はそうではない。
神崎さんは自分のことは自分でできる人です。だからこそ、姫がいなかった数ヵ月間もなんの不自由もなく過ごせた。
だから、希依さんもこの数時間で吉良さんより楽だなとお思いになったはずです」
……まぁ、確かに…
なにを選ぶにしても、竜司くんはなんでも自分から言ってくれた。
ドアを開けていてくれたりもしたし、着替えだって私はなんの準備もしなかった。
それどころか、私の課題もとっても丁寧に教えてくれた。凰成だと、私の考えている時間の方がよっぽど長い。そして頼くんの時も…「あとはご自分で」みたいなスタンスだ。
さっきもちゃんと現金を持っていたし…
「確かに、神崎さんも希依さんといることで世間というものを知ると思います。
ですが、それは神崎さんに意欲があるからです。
私たち4人の中で一番厳しい家で育った神崎さんだからこそ、彼はすでにいろんなことを知り、自分で頑張ることができる人物です。
それに比べ、吉良さんは一番放任されて育った。
だからこそ吉良さんはなにも知らず、頼ることしかできない。
それによって希依さんが吉良さんに手を焼いてきた。
ですが、そんな吉良さんだからこそ、希依さんが成長してきた部分も多くあるはずです」
もう、アイスが溶けるんじゃないか
そう思う余裕すらないくらい、…足を動かす余裕もないくらい、頼くんは私に強く訴えかけた。
頼くんから伝わる『高梨希依の主人でいてほしい凰成』と『吉良凰成の姫でいてほしい希依』。
「主人と姫は、お互いが成長できるためにある制度です。
あなたは、吉良さんの側にいるべき人です」
でも、そんな頼くんに
私は自分の意思ではなにもできることがなく、なにを言えなかった。
「これからの1ヶ月でいろんなことがあると思いますが
どうか、また吉良さんの元に戻ってあげてください」
「……うん」
そんな、力ない返事しか、私にはできなかった。


