私と結婚してください。




━━で、なぜか連れてこられたのは男子寮の向こう側にある、理数科敷地。

そう、ここは普通科と理数科は完全隔離。
寮は一緒なんだけどね、階数が違うんだ。

…でも、理数科って初めて来たけどさ


これ、校舎じゃなくね?



え?校舎あっちでしょ?
この建物はなに?体育館は向こうでしょ?

なに、これ。
普通科にはない建物だな…


「あの、私はいったいここで何を…」


「だから俺の姫だっつってんだろが」


「だからその姫ってなんなのよ。
姫とか言ってて恥ずかしくないの?」


「ちっ…
そういう呼び名なんだから仕方ねぇだろが!!」


ひぇぇぇぇ!!
いきなり怒鳴んないでよ!!


「まぁまぁ、普通科の子にはあんまり関係ないことだったから仕方ないじゃん?」


「…ったく、めんどくせぇな」


……揃いも揃って
普通科のことバカにしすぎでしょ!
理数科の勝手なシステムなんか興味すらないわ!!


「とにかく入れよ。
お前の寮は今日からここになる。」


……寮?これが?

でっか!!


「……って、え?は?
え、なんで?」


「だからお前は今日から理数科、神楽・吉良凰成の姫になるっつってんだろ」


「そんなの私許可した覚えないんだけど!!」


「でも、凰成のご両親も希依ちゃんのご両親も学校側も許可はしたみたいよ?
じゃなきゃ希依ちゃん、この建物入れないからね。」


「それに、昨日テメェが自分で俺に言ってただろ。
結婚してください、って。」


「だ、だからあれは…
それにそれとこれとは関係ないじゃん!!」


「ここでの姫は主人の配偶者になる。
テメェの面倒は俺が見てやるよ。もうテメェは金の必要がなくなる。」


「……それで?私はなにをするわけ?」


「テメェは俺の世話係ってとこだな。
起こしに来たり、飯の用意をしたり。」


は!?めんどくさ!!


「これから希依ちゃんは凰成に付きっきりになるよ。
寮では同じ部屋じゃないけどコネクティングルームになっていて、二部屋が自由に行き来できるようになってるよ。」


コネクティングルーム…?なんだそれ。
自由に部屋の行き来ができる?

あ、そういえば前家族でホテルに泊まった時の部屋がそんな名前だったような…


「主人の遅刻は姫の遅刻になって、主人の欠席は姫の欠席になる。
主人はそれ相応の対価を払う。

それがパートナーシステム。
神楽に属した人だけが使えるシステムで、基本的に姫も理数科の人が多い。

ここは神楽の寮でもあり、校舎でもある。
神楽は日中、ここから出ることはほとんどない。
理数科の中でも隔離されてる、特別な人しか入れないんだ。

ちなみに、パートナーシステムは高校3年からしか使えない、特別な制度。この1年で俺ら神楽が立派に卒業できるように全面サポートするのが姫ってわけ。」


「……に、それ…
人身売買じゃん!!」


「嫌ならやめればいい。」


「え!やめられるの!?」


「もちろん。神楽でもそこまで強要はできないよ。」


「じゃあやめ「ほらよ、自主退学届。」


……はい?


「神楽の姫をやめるにはそれ相応の理由が必要なんだ。
たとえば希依ちゃんがなにか飛び抜けて才能を持っていて、そのための時間が必要だから、とか
もしくは異性の姫をやるなら、すでに婚約者が希依ちゃんにいる、とかね。

でも希依ちゃんに婚約者はいないでしょ?」


うっ……


「特別な才能があるなら学校側は許可したりしねぇ。
つまりお前が姫をやめるなら、この学校をやめるしかねぇ。

ま、俺はいいけどな。お前がやめるなら他を探すまでだ。」


……こんなの、やっぱり人身売買となんにも変わんないじゃん…


「ほら、辞めんなら自分でサインしろよ。」


「…わ、わかったわよ。
やればいいんでしょ!?」


「へぇ、案外話が早いんだな。」


当たり前でしょ!
こんなことで退学なんてするもんか。