俺が会長代行に抜擢されて間もなく、詩乃が秘書の芹沢に喰ってかかったのを思い出した。

「以前も君に喚き散らしたことがあっただろう。あの人は俺のこととなると、感情的になる」

芹沢の瞳が「何故ですか?」と、無言で問いかけている。

「そうだな……」

どう話せばいいだろうーーと、椅子をくるりと回転させた。

硝子張りの窓に映し出された景色が、パーと目の前に広がる。

ビルばかりの無機質な景色の先に、一際目立ってスカイタワーが見えた。

「詩乃とは直接、血が繋がっていない。詩乃の両親は会長の姉夫婦だ」

背中越しに、芹沢の息遣いを感じた。

「俺が5才の時に姉夫婦が事故で亡くなり、会長が引き取った。以来ずっと姉弟として暮らしてきた」

当時の詩乃は今よりずっと大人しくて、窓辺に腰掛け本読みをしているような少女だった。