「ご自宅にあしげく通っていた。大御所の原稿を誰よりも先に読める、特権。毎回、楽しみだった」

「会長代行はいつでも、仕事を楽しんでいらっしゃっいますね」

「そう見えるならば、そうなのだろう」

俺が教務課事務員の手に、ファイルを戻しながら応えると、彼女は「あ……」と漏らし、首を傾げた。

自ら楽しんで仕事をしているわけではないのか? と、呟きながら。

「お2方(ふたかた)には、此方で打診してみよう。受験の意志があられるならば、ご指導するとしよう」

「よろしく……いえ、会長代行、ご多忙ですのに」

「あの方々は、貴女方の手におえる相手ではないだろうから」

教務課事務員は俺が笑って見せると「たしかに」と呟き「では宜しくお願いします」と、教材を握らせた。

ちゃっかりしているなと思ったが、口には出さなかった。