「芹沢、君の上司は俺だ。詩乃に何を言われようと、一切気にするな。詩乃の過保護は今に始まったことではない。詩乃にいちいちスケジュールを見せる必要はない」

「ですが……」

「経営を知らない者に意見する資格はない。機を逃しては纏まるものもまとまらない」

「はい」

会長代行はわたしが躊躇いがちにスケジュール帳を閉じたのを確認すると、微かに笑みを浮かべて頷いた。

「芹沢。ひと息つこう。頂き物のクッキーがあるんだ」

会長代行が鞄から取り出したクッキーをデスクの上に置く。

「あっ……それ、扇屋の限定クッキー」

「昨日、パソコン教室の生徒にもらったんだ」

そう言って微笑んだ顔は邪気のない子供のようだと思った。

「紅茶、淹れてきますね」

わたしがスッと席を立つと、会長代行は腕を伸ばし、クッキーの袋を差し出した。