私は由樹を守るつもりで「万萬詩悠」という存在を作ったのだと、自分自身を納得させてきた。

でも、そのことが却って由樹を苦しめてしまったと実感する事件が起きた。

ゴーストライター疑惑が大々的に話題になった。

社内営業部社員からの内部告発だった。

私が由樹の原稿を投稿しなければ、由樹は出版社の社員と作家の二足のわらじを背負い、多忙な日々を送ることもなかった。

万萬詩悠と結城由樹を演じ分けることもなかった。

ゴーストライター疑惑をかけられることもなかった。

私が由樹を追いつめてしまったのだと、後悔した。

でも由樹はそんな逆境をも何事もなかったように、大丈夫だと笑ってみせた。

万萬詩悠と結城由樹は同一人物だと明かした記者会見。

由樹は颯爽とカメラの前に立ち、深々と謝罪した上で作家宣言をした。