常務秘書の経歴も気質も把握した上で、「これから、ご一緒にーー」と、常務秘書のプライドを(くすぐ)ったのだろう。

常務秘書は会長室の扉をバタンと荒々しく閉めた。

「バカにしないで。指示を伝えるくらい、私にもできるのよ」

扉を閉める直前、常務秘書はたしかに小声で呟いた、鬼のような形相で。

「常務はたじたじだろうな。あの秘書はなかなかに気が強いようだ」

会長代行はくるりと椅子を回転させて立ち上がりった。

窓硝子越しの景色を眺めているのだろう。

ーーこの人は人のやる気を引き出すのが上手い

当たり前のことを当たり前に伝えて、何故こうも会長代行の言葉は響くのか?

わたしは会長代行と初めて会った時のことを思い出していた。

あの時はなんと頼りない男の人だろう、新入社員かなと思ったのに。

短期間のうちに何と頼もしくなったんだろう。