数日後、その子がまた来てくれた。お母様がとても喜んで食べてくれたとお礼を言いに来てくれたのだ。

今度は自分の分と言い、ビターチョコレートのブラウニーをひとつ買っていく。
一番甘さ控えめのを選んだところをみると、もしかしたらそこまでケーキは得意じゃないのかもしれない。

本当にお礼のために寄ってくれたのなら、今時珍しいくらい良い子だなあ。
それを裏付けるように、彼は帰って行くときも何度か振り返り、頭を下げてくれる。だから私も店の外まで出て、しばらく見送っていた。

次にその子が来たのは、春休みも終わり、3年に上がった頃だった。
新入生になり、新しい友達も出来て、皆で食べるとたくさんの種類を買っていく。
3箱ほどになったので、外に置いてあった自転車の籠まで一緒に運んだ。
「気を付けてくださいね」と声をかけると彼はじっと私を見つめた。

「あのっ皆に、すげえ美味いケーキだって言ってあるんです」
「わあ、ありがとうございます」
「て、店員さんも、その、可愛い人だって・・」

言っておきましたっ!と叫びながら、彼は光の速さで自転車を漕いでいった。

あっという間に見えなくなったのに、私はポカンと景色を見つめたまま。
次にあったらどんな顔をしよう。
また来る保証なんてないのに、ドキドキする胸を押さえる。

今度は私が大好きなチーズケーキも勧めてみようかな・・そう思っていた矢先、思いがけないことが起きた。