本格的に泣き出した私をヒロトくんはポカンとした顔で見つめていた。
あまりに何も言わないものだから、私が徐々に我に返ってしまい、次第に恥ずかしさを感じていく。
思いが上手く伝わらないからって泣きじゃくって、何してるんだろう。
これじゃあペットでいることにさえ嫌気がさしてしまうかもしれない。
やっぱりちゃんと言わなくちゃ。
咳き込みながらも息を吸って、少し開いたままの唇に指を当てる。
「ペットじゃなくて彼氏になって。・・ヒロトくんが好き」
震える唇から洩れた吐息が指先をくすぐる。
それに心地よさを覚えながら、もう一度唇を重ねた。
その直後、ヒロトくんの目からも涙が零れた。
「えっ」
今度は私の方が焦り、固まってしまう。
どうして?嫌だった?やっぱりヒロトくんはペットのままでいたいんだろうか。
ぐずぐずした醜い感情に巻き込まれたくないのだろうか・・
大きな不安は、伸びてきた腕に寄ってすぐかき消された。
「ん・・」
向かい合って抱きしめられたまま、何度もキスをする。
最初は私から。
そして初めて、ヒロトくんからのキスを受ける。
夢かもしれないとぼんやり目を閉じれば、「先輩・・」と久しぶりに気持ちの宿る呼び名を聞いた。
「ホントに、犬じゃなくてもいいんですか」
鼻を鳴らしながら呟かれる言葉に必死で頷く。
「それでも会いに来て、抱きしめても?」
「うん、うん・・」
「由枝先輩のそばにいて良いですか?」
返事の代わりに、もういく度目かわからない私からのキスをした。

