ずりずりとシーツの波間を這って、サイドに置いてあるスマホを掴む。
誰だろう、こんな時に。
今の私のテンションでは、友達の明るい話やお母さんの世間話には付き合えないかもしれない。

そう思って恐る恐る画面を見る。
けれど滲んだ視界に浮き出た名前に、一瞬瞬きをしてからすくっと立ち上がった。

『先輩・・おひさしぶりです』

ベッドの上に仁王立ちした状態の私に注がれる、控えめに掠れた声。
その瞬間、苦手な上司を振り切ってヒロトくんの姿が蘇り、思わず胸のあたりを押さえた。

「ヒロトくん、久しぶり。どうしたの?」
「ちょっと、話したいことがあって。今・・」

良いですか、と言われるのを想定して、今度はベッドのふちに腰かけた。
なんだか元気のない声に、自分のモヤモヤも忘れて心配になる。
この間そっけなくしちゃったお詫びも込めて、悩み相談ならいくらでも付き合ってあげよう・・

「今先輩の家の前なんですけど・・もう帰ってますか?」
「えっ、うち?」

予想が外れて思わず窓の方に目をやった。
とっさに駆け寄ると、道路の脇に確かにこの部屋を見上げるヒロトくんがいる。
皆でこの部屋に遊びに来たことはあるけど、ヒロトくんが1人でというのは初めてだった。
それほど、切羽詰まった話なんだろうか。

夕焼けに照らされたその表情がドキッとするほど切なさを帯びて見え、気づけば玄関に向かっていた。