しばらくそのままでいたけれど、さすがにケーキも温くなってはまずいので、そっと身体を離す。
手探りでコードを掴み、電気をつけた。意外にもヒロトくんはしっかりした表情で私を見ている。

「ご、ごめんね、実家の犬にもよくしてたもんだから」

動揺してるのはこっちみたい。
言い訳のように口にすると、ヒロトくんがいつものように「わんっ」と鳴いて笑う。

「食べて良いですか?」
「うん、もちろん」

普通にしてくれたことに、ホッとしたような、少し悲しいような。
今のキスを彼はどう受け止めたのだろう、本当に、ペットへの愛情と同じに感じたんだろうか?
そんな葛藤も、喜んで食べる姿を見たら少しずつ薄れていく。

「やっぱここのが一番美味しいですね。うちの店もデザートはあるけどここまでの味は出せないな」
「そういえば、オーナーがヒロトくんのこと覚えてたよ。ケーキ好きならバイトして欲しいって」
「えー、嬉しいけど今んとこあるし・・ご主人様がいる時ならなあ。一緒に働けたのに」

うーんと首を傾げる姿に、ふとカウンターにいるヒロトくんを思い描いた。
オーナーが言うとおり、若い女の子のお客様がたくさん来そう。
ケーキは飛ぶように売れるけど、私は・・

想像の出来事なのに、馬鹿みたい。
だけど実際、今のバイト先でもヒロトくんのことを気に入ってるお客様はいると思う。

「ご主人様?」

なんだか胸が締め付けられる気がして、もう一度近寄り、頬に触れた。猫じゃないのに、顎の下を撫でると目を細める。
こんなに可愛いペット、誰にも見せたくないなんて思う私、相当ハマって来てるんだろうな。