俺は、愛情表現が苦手だ。

苦手っていうか、恥ずかしい。

よく見かけるカップルの光景にあるようなことは絶対無理。

せいぜい手を繋ぐくらいだ。

じゃ、家ではどうかって?


変わりませんよ。


時々彼女がソファに座っている俺に、後ろから抱きついてくる。

でもそれで、「こいつぅ~カワイイなぁ~」ってハグする展開にはならない。

彼女もそれが分かっていて、でも、ニコニコ嬉しそうに抱きついている。

その笑顔はぐっとくる。

表情や態度には出ないけど、好きが積もる瞬間だ。

ひとしきり、堪能したのか、そっと離れてキッチンに戻る。

そして、彼女がキッチンから声を掛ける。

「今日は豚バラと野菜いためでーす」

これは合図。一緒にご飯作ろうっていう二人の合図だ。

俺も作るのが好きで、二人で分担して晩飯にとりかかる。

切る量を見てもらったり、彼女が作る出汁の味見したり。

「うまい」って言うと、彼女の顔がほころぶ。

ほら、また好きが積もる。

「二人でご飯作るの好き」

彼女はいつも、惜しみなく俺にいろんな「好き」を伝えてくれる。
どんな小さなことでも、嬉しそうに、ときに楽しそうに。

4歳年上なのも忘れてしまいそうなくらい、無邪気なときもある。
ひねくれ者には少し眩しいほどに。


「おいしい」
「おいしい」

ふたりで晩ご飯を食べるといつもより美味しいし幸せだ。

ちゃんと伝わってるのか。
ちらっと見ると、おいしそうに頬張るいつもの顔。

こういうとき、言葉に出せばいいのに、味噌汁と一緒に流し込む。


風呂上がりに彼女が髪の毛を乾かしてくれる。
丸い小さな手が、俺の心ももみほぐして柔らかくなっていく。

その勢いで、そっと伝えてみる。

「好き」
「知ってる、気持ちよさそうにしてるもん」

あ、そっち?
そりゃマッサージみたいで気持ちいいですが、その意味じゃないんです。