「……お姉ちゃん?」
ハッと我に返ると何故か緑斗の顔色がいつもと違った。
黒く渦巻いた気持ちを扇風機の風でかき消して、仕返しのように今度は私が緑斗の顔を覗く。
「どうしたの?」
いつもニコニコと爽やかな顔をしてるくせに、
こんなに視線を落としている緑斗の表情は初めて見た。
「分からないけどなんか……」
「?」
「この辺りがチクッとした」
緑斗はそう言って胸を抑える。
私が緑斗に発したのは〝お姉ちゃん〟って言葉。そして緑斗もそれを聞き返してきた。
「……お姉ちゃんがどうかしたの?」
「いや、翠ちゃんのお姉ちゃんじゃなくてさ。
なんかこう……うーん」
次は胸じゃなくて頭を抱えはじめた。
ただでさえ暑いのに緑斗は頭でお湯が沸かせそうなほど「うーん、うーん」と考えている。
「もしかして緑斗にもお姉ちゃんがいたんじゃないの?」
これはただの勘だけど。
すると緑斗の瞳が一瞬霧がかかったように雲って、まるで意識がどこか遠くに行ってるみたいに。
そしてどうしてかそのまま消えてしまうような気がして、触れもしないのに私は手を伸ばした。
「りょ、緑斗……?」
次にハッとしたのは緑斗のほう。
「考えたけど分かんないや。多分、気のせい」
あはは、と笑う緑斗はいつもどおり。
いつもどおりで変わらないはずなのに、少し笑顔は寂しそうに見えたのは私の勘違いだろうか?



