「俺はさ、姉さんのことを結婚したいぐらい好きだったかどうかは分からないよ。でも彼氏ができるたびに嫉妬して絶対奪われたくないって。なんなら一生結婚しないで俺と一緒にいたらいいのにって思ってた」
こんな緑斗は見たことがない。
緑斗が恋をしたらどんな感じかなって想像してたより、ずっとずっと余裕がない顔をしてた。
「だけど姉さんが結婚相手に選んだ人は奪われても仕方ないと諦められるほど良い人で。この人なら姉さんを幸せにできるって安心感と、それなら俺の残った気持ちはどうすればいいんだろって考えた」
「………」
「どうせ今でもなかなか会えないし、結婚したらもっと会えなくなるだろうし。だから絶縁されてもいい覚悟で俺は姉さんに気持ちを伝えようと呼び出したんだ」
緑斗の記憶の一番奥。大人でも子どもでもない狭間の中でもがくその姿が私の頭で映像化される。
「その日は雨が降ってた。俺はコンビニのビニール傘を買って、失恋の傷が少しでも軽くなるように前向きな曲をいつもより大きな音量で聞いてた」
水溜まりなんて気にせずに歩くハイカットのスニーカー。紐のゆるみなんて目に入らないほど心は別の場所にあった。
「だから後ろから来てたトラックの音なんて全然気づかなかったんだ」
その衝撃音が聞こえてくるかのような胸のざわめき。緑斗の言葉が一瞬止まったけれど、またぽつりぽつりと続きを打ち明けてくれた。
「俺は跳ねられて傘が雨空に飛んだことだけは覚えてる。だけどそこで記憶が途切れて、俺は今の姿になってた」
緑斗の事故の真相。ずっと知りたかったけど聞けずにいた部分。



