「でも姉さんは俺を本当の弟だと思ってるし、母さんも父さんも大切だから家族を壊す選択なんて考えなかった。……あの日までは」
ぎゅっと緑斗の手に力が入ったのを私は見逃さない。鈴虫の声も今は聞こえないぐらい私は緑斗だけを見つめていた。
「16歳の冬にすでに一人暮らしをしてた姉さんが帰ってきた。ひとりじゃなくてしっかりネクタイをしてスーツを着た男の人と一緒に」
「………」
「相手は6歳上の高校教師。同じ大学のOBで姉さんが入ってるサークルを通じて知り合ったらしい。その人は俺から見たらすごい大人で、並んで正座してるときも姉さんを守ってるって感じだった」
それを見てることしかできなかった緑斗の気持ちが痛いぐらい伝わってくる。
緑斗は目線を変えて星が一切見えない夜空を見上げた。
「みちるさんが大学を卒業したら僕と結婚させてくださいって、その人は堂々と言った」
そして先生は婚約した。
綺麗なダイヤモンドの指輪が約束のしるし。



