カゴノトリ

「いってきます、おっちゃん!」

「おうよ、行って来い行って来い」

「気をつけなさいよ?最近は物騒なんだから」

重い資材の入ったリュックを背負い、頭領の家を出る。今日、頭領は体調が悪くて仕事を休むのだ。だから今日は私一人で出勤する。



工事現場に行くまでには、海岸沿いを通る。あの気持ちのいい海風を感じながら出勤するのは大変な感動だ。生きてるだけで儲けもんである。

堤防の上をのんびり歩く。と、その時。

コツリコツリと鳴り響く靴の音。ハッとして前を見ると、1人の男性が、悲痛な目をして堤防の上に立ち、海を見ていた。その表情は、ただただ空虚。

高そうな黒いロングコートが翻る。少し癖のある真っ黒な髪が、風に揺れていた。

男性は、一歩一歩海へ近づいていくーーーー堤防から落ちる!!!

「でぇりゃっ!」

重い資材の入ったリュックを、思わず男性の足めがけて投擲する。命中した。きっとあれは相当痛いですねー……。

予想通り男性は足を庇うようにして座り込んだ。こちらの存在に気づいてはいるようだが、痛みのあまり言葉を発する余裕もないようだ。


私は男性に近づいていく。男性は恨めしそうにこちらを睨み、強く唇を噛んでいた。

「……あの。生きてたら儲けものだと思いますけど」

「……突然現れて何だい、君」

「生きてさえいれば朝が迎えられます、美味しいご飯が食べられます」

「………へえ。私を止めようとしてくれるんだね。だからあんなものを投げつけた。痛かったけど、君のその心遣いは嬉しいよ」

「アンタ死にたいんですか?」

男性が、いやこの男があまりにも全てを諦めたような目をするもんだから、流石に私もムキになってしまった。

「そうですか。死にたいんですか。否定はしませんよ。死ぬなとも言いませんし、アンタに同情もします」

自分は何を支離滅裂な事を言っているんだと、内心で頭を抱える。

そしてゆっくりとしゃがみこむ彼に近づき、軽く抱き締めた。傷心している時はこれが一番いい。

「アンタに何があったかは知りません、申し訳ないけれど。でもこっっっんなに幸薄な私だって泥水啜りながら生きてるんです、ましてやアンタの居場所は他に作ろうと思えばいくらでも作れるはずです、勘違いしないでくださいね!」

リュックを回収し、捨て台詞を吐いて工事現場へ急ぐ。






「………君は、誰なんだい」



あの人と私のファーストコンタクトは、これであった。