「アイスでも食いに行くか」


振り返ろうとした私の顔にも掛かるよう、頭にタオルをかけられた。


「わふっ!」


思わず変な声が漏れたけど、それを潰すみたいにタオル越しに頭をくしゃりと撫でられた。


「言っとくけどそれ、綺麗なやつだからな」

「知ってます。先輩汗かくほど今日は体育の授業受けてないですもんね」

「ははっ、うっせーよ」


また頭をくしゃりと撫でられた。


「まだ暑いとはいえ、濡れっぱなしだと風邪ひくぞ」

「大丈夫です。私頭良くないので風邪ひかないですから」

「だからだろ。バカは夏に風邪ひくんだよ、バーカ」


そんなにバカを連発しなくてもいいじゃないですか。


顔にかかったタオルを払う先にいる先輩は、私に傘を差し出して自分は濡れている。


「……先輩こそバカですか? めっちゃ濡れてるじゃないですか」

「俺は濡れてる方がいんだよ。水も滴る、ってやつだ」

「やっぱりバカだと思うので風邪ひくと思います」


私がそう言い終わるか終わらないかのタイミングで、勢いよく傘を押し付けられてしまった。

でも先輩は意気揚々と鼻歌なんて口ずさみながら空を仰いで雨を受け入れてる。


ーー水も滴る、ってやつだ。


そうですね、先輩はかっこいいです。みんなが騒ぐ理由も分かります。

今だって、雨が先輩に触れて喜んでいるようにも見えます。バカバカしい例えですけど、本当にそう思えるのだから仕方ありません。

先輩に触れた雨は小さな礫(つぶて)となって先輩の体に触れて、弾かれて、飛んで、消えていく。

まるでダンスでも踊っているかのように、舞って消えていく。