「青井センパイ! こっちこっち」


美味しそうな唐揚げの匂いが私の胃袋を握りつぶそうとしている中、ふっと私の目の前を駆け抜ける香水の人工的な香り。

長めボブの毛先をふんわりと撒いた彼女はきっと私の一つ上の先輩だ。彼女の結んでいるリボンの色がそれを表している。


「まーた彼女変えたんだ。ほんと続かないよね、青井先輩って」

「わわっ! りょうちんか、びっくりさせないでよ」


背後からぬっと現れたクラスメイトの“りょうちん”こと紺野良子。お昼時で賑わう学食内はたくさんの生徒でごった返していて、そのおかげでりょうちんが私の背後にいるなんて気づきもしなかった。

しかもりょうちんはあえて私が振り向いた瞬間に目と鼻の先にあたる距離にまで顔を近づけて、明らかに驚かそうとしていたに違いない。

思わず手に握り締めていた財布を落っことしそうになってしまった。


「なーによ、あたしが近くにいる事も気づかないくらい青井先輩に魅入ってたっての?」


りょうちんが嫌味を言う時のクセ、犬歯が良く見えるくらい口をにっと開き、こぶしをその口元に当てている。


「りょうちんってば明らかに私を驚かそうとしてたじゃん」

「いやいや、あまりにも青井先輩に熱い視線を送ってるから嫉妬しちゃったんじゃん?」

「してないし!」


熱い視線って……そんなに露骨だったかな? 否定したものの、ちょっと不安になってみたりして……。

ちらりとちょうちんを見やると、「ほらやっぱり、先輩を見てたんじゃん」なんて言いながらまたしししっ、と笑っている。