颯ちゃんが卒業した年の、春休み。




『ーー俺と付き合って下さい』




あの言葉は、今でも夢だったんじゃないかって思ってる。

今でも夢の中にいるみたいな感覚で、足元がおぼつかない。ふわふわとした感覚だった。


颯ちゃんが私を……?

なんてバチでも当たりそうな夢見てるんだか。


これはやっぱり夢だったに違いない。そう思うのも、颯ちゃんが卒業してから、私達は一度も連絡を取ってないし、もちろん会ってもいない。

それなら連絡すればいい話だけど、それをするのは気が引けてしまう。だってこれは夢だ。連絡を取ればあっという間に夢は覚めてしまう。まるで雪のようにふわりと溶けて、跡形もなくなってしまうんじゃないかって思うから。


夢は夢のままにしておく方がいいのかもしれない。


私はそう思って、ごろんと寝返りをうった。せっかくの春休みだというのに、私は熱にうなされていた。

気候が上がったり下がったり、不安定な気温のせいで私はまんまと風邪をひいてしまったらしい。


「ほーら、私は馬鹿じゃないですよ。こうしてちゃんと風邪だってひいてるんですからね」


夏風邪は馬鹿がひく。そう言ったのは颯ちゃんだ。春は目前だけど、まだまだ冬。だからこの風邪は馬鹿がひく風邪じゃない。

私は今にもとろけてしまいそうな脳みそで、颯ちゃんの事を考えていた。


なにせ、暇だ。寝てるだけなんて暇すぎる。けど、体はだるいし、何もする気にはなれないし。


病気って、人を弱らせるからダメだ。

だって……無性に颯ちゃんに会いたくて仕方がない。