キミと初恋。

「いってぇー!」


その声に、イケメンが目の前で胸元を抑えながら唸るその姿に、私はやっと我に返った。


「あっ!ご、ごめんなさい!」

「ゲホッ!どんな馬鹿力だよ、ゲホッ」


思わず手が出てしまった。昔空手を習っていた、茶帯の私の突きはなかなか効いたに違いない。

とっさのこととはいえ、もちろん手加減はしている。


「本当に、すみませんでした!」


こうなったらもう、ここは逃げるが勝ち!そう思った私は、先輩がむせて立ち上がれないのをいい事に、一礼をしてからそのままその場を立ち去った。

いつもなら外野のひとりだったはずなのに、今回はどうやら渦中の真ん中にいたようだ。

席を立ち、食堂を出ようとしたら思った以上に聴取が私達の周りを取り囲んでいた。


イケメン青井先輩を殴った一年女子……。


危険人物とでも言いたげに避けるように道を開けてくれる聴取。そんな聴衆の目から逃れるように、私は走ってその場を後にした。

きっと自己ベストを更新したに違いない。

後ろを振り返らず、一番遠く離れた一年校舎へと向かった。

心の中で、神に祈りを捧げながら。


これが夢でありますように、とーー。