キミと初恋。

振り返ってみると、すごく近い距離にお顔の整った美青年が長い脚を窮屈そうに組んでこっちを見ていた。

立てひじをついて私をじっと見つめる先輩……直視なんてできません。

さっきの件でほんのり濡れた髪が、またイケメン度を上げているように思う。

水も滴る、とはこの事か。なんて、そんな事考えてる場合じゃないのに。


「俺、あんたになんか迷惑かけた事あった?」

「……へっ?いやぁ〜……」


先輩がいるといつも以上にお昼の席が混むので、それは迷惑してるかも。

でもそれくらいかな。
ってかそんな事口が裂けても言えないけど。


「つーか、もしかして……」


長い睫毛を揺らしながら大きく見開いたほんのり茶色の猫目が、びっくりするくらい綺麗に私を映し出していた。

一瞬、その表情にどきりとした。


……のに。



「俺、もしかしてお前と付き合った事あったっけ?」


……はぁ?


「悪りーけど、覚えてねーわ」


私の中で何が音を立てて崩れ始めた。


覚えてない……? 自分が付き合ってきた彼女の事を……?

いや、ええ、そうでしょうよ。なにせ私付き合うどころか、この学校に入学して先輩と会話するのすら初めてなんですから。

ガラガラガラという音が、私の中にいる青井先輩のイメージをどんどん曇らせ、壊していく。


そしたら、目の前が真っ暗になってーー気がつけば、私は先輩をどついていた。