「ねぇ、かすみ」

「なによ。もうあげるものはないからね!」


私は残りのパンをりょうちんの魔の手から逃すため、引き離した。


「じゃなくって、明日卒業式じゃん? あれから青井先輩と全然話してないの?」


明日は卒業式。私達はただの終業式だけど、3年生にとってはこの学校で過ごす最後の日。


「うん、話してないよ」

「連絡も?」

「うん」

「ふーん」


そう、あれから私は先輩とは連絡を取っていない。

学校で見かける事はあっても、話しかけにいかないし、先輩も私に話しかけてくる事はなかった。

もう私を妬む人もいなければ、私が颯ちゃんと一緒にお昼ご飯を食べてたって事ももう話題にすらならない。


「でもあの後から、青井先輩の隣に座る女子はいなくなったじゃん。かすみが望んでた通りになったんじゃん?」

「なんかそれ、誤解をよぶ言い方だね」

「まぁ、席を他校に移しただけかもしれないけどー。しししっ」


りょうちんは意地悪そうにそう言って笑った。けど、私はそれならそれでいいと思う。

それが本当に颯ちゃんの好きな人なんだったらそれでいい。

前みたいにあんな周りを傷つけて、自分だって癒されもしない迷走の中にいるような颯ちゃんでなければ良いって思うから。