見上げると、マスクにサングラスの雨宮さんがそこにはいて。




「…もしかして、噂の親戚のお兄ちゃんですか?」




「あ?」




あ、やば。



圭吾先輩の問いに今間違いなく眉間にシワがよったことだろう。




家に帰ったら何を言われることやら…と頭を抱えたくなったけれど、それよりも。




どくどくと直に伝わってくる鼓動が、心地いい。




もしかして、また走ってきてくれたんですか?




同居初日のあの日を思い出して、思わず笑が溢れる。





「昨日今日と気を遣わせたみたいで悪かったな」



「いえ、僕が勝手にしてることですので」




「そうか。ただ世の中には送り狼という言葉があってだな。こいつにはそういった危機感が備わってないらしい」



「ちょ、雨宮さん!!圭吾先輩になんてこと」



「うるさい。お前は少し黙ってろクソガキ」



ひっ。



かつて無いほど鋭い目つきで睨まれた私はそれ以上口を挟むことは許されず。




「とにかく、だ。気遣ってくれたことには礼を言うが、下手なことはしてくれるな。次はない」




ドスの効いた声で吐き捨てた雨宮さんはくるりと方向をかえ、私の手を掴んだまま歩く。




振り返った私は圭吾先輩に頭を下げ、そのまま雨宮さんについて行くしかなくて。