---懐かしい。

馬鹿みたいに見当違いな感想が、ためらいもなく浮かぶ。

私の知ってる颯ちゃんだ。小さい頃に見た、少し頼りない背中の颯ちゃん。あの頃の彼が今、必死に私と向き合っているんだ。

震えた声が愛おしくて、泣きそうになる。


「ものすごく勝手だけど、……俺は」


颯ちゃん、今やっと分かったよ。私との間に壁を隔てた、本当の理由。

そんな顔、させてごめんね。颯ちゃんの居心地のいい存在で、いられなくてごめんね。


「ゆずにはゆずで、いてほしいっ…」


---好きになって、ごめんね。


「…颯ちゃん」


きっと颯ちゃんにとっての"幼馴染"は、私が思っていた以上に特別で、あまりに大切だった。

いつだって最上位にあって、彼氏とか彼女とか、そんなありきたりな関係はどうしたって勝ることができないんだ。

例えば恋人という名前がめちゃくちゃ高価なダイヤモンドだとしても、"幼馴染"と並べたらただの石ころにしか見えなくなってしまう。

だから颯ちゃんは、部屋に来るな、なんて言って距離を取り続けたんだ。大切な、幼馴染の距離を死守するために。


「伝えちゃって、ごめんねっ…」


宝物だから。それを捨てて石ころに変えるのは、きっとすごく、怖い。

薄々分かっていたのに、抑えられなかった。幼馴染でいたいのに、恋人の関係も欲しくなってしまったんだ。恋ってなんて欲張りなんだろう。


「ゆず、違う。…ちゃんと、嬉しかった」


泣き出しそうな、声。


「待っててくれて、ありがとう…っ」


謝ってるのに、ありがとうで返すなんて。どうしたって、嫌わせてくれないんだ。