「また来たんですか、大学ってそんなに暇なんですか?」

締め付けられる胸の痛みを誤魔化すように、私は陽介先輩に質問を投げ掛けた。返ってくる答えはとっくに予想出来ているのに。



「可愛い後輩の指導に来てやってんだよ。感謝しろよ。」
ふん、と鼻を鳴らして答える先輩。
いつも同じ答えなのだ。
大学生の先輩は、たまにこうやって書道室に遊びにやってくる。





私が1年生の時に、3年生だった陽介先輩。
派手なタイプではないけれど、端正な顔立ちに、分け隔てなく接する性格が皆に受けて、いつも真ん中にいる人だった。
そして、何よりそうは見えないのに書道部だというギャップが女の子のハートを掴んで離さなかった。

文化祭の作品展示には、いつも陽介先輩の作品にダントツでお客さんが集まる。数少ない男子部員だということも相まって、書道部内からも人気で部長をこなしていた。




…だからきっと、大学でも人気者なのだろう。
いろんな人に囲まれて笑う陽介先輩が、容易に想像できる。


対する私はまだ、制服に縛られた小さな箱庭にいる。
生徒指導の先生が怖くて一つしか折れないスカート。
長い髪は縛りなさいという校則にのっとったポニーテール。
ささやかな反抗に、色付きのグロスを塗っても、お化粧に比べるとやっぱりそんなに変わらない。


スカートを短くしている子も、お化粧をしている子もいないわけじゃない。
だけど私は、怒られるのが怖くて出来ない。
そんな私はきっと、外からは地味に見えているんだろうな。