「わわっ…!」
痛くはないけれど、驚く絶妙な引き具合。
決して褒めてはないけれど、毎度感心する力加減だ。
「…っ陽介先輩っ!!」
私が眉をひそめて振り向くと、そこにはやっぱり陽介先輩がいた。
今さっきまで顧問の先生と話していたのに。
「相変わらずだなあ、胡依(こより)は。」
行動には似つかわしくない爽やかな笑顔を浮かべて、陽介先輩は立っていた。
「毎度毎度髪引っ張るのやめてください、禿げちゃう。」
私が小さく抗議すると、陽介先輩は後ろの長机に腰掛けた。
「胡依のポニーテール、俺好きだもん。」
そう言うと、陽介先輩は引っ張った私の髪をそっと指に絡める。
ふわり、と、墨の匂いに混じって、私の知らない香水の香りが漂ってくる。
その香りに、私の胸はまたきゅうっと縮んでしまう。もう、ワイシャツを着ていた黒髪の陽介先輩ではないのだ。
気付かれないように、私は制服のスカートの裾を握った。

