「沢城くん、また来たの?」

威勢の良い声に、顧問の先生が机から顔を上げる。
そう、今勢いよく入ってきたこの人も、元書道部員だ。



沢城陽介(さわしろようすけ)、20歳。
書道部に似つかわしくないこの人は、現役高校生ではない。
その証拠に、学校指定のワイシャツも、えんじとブルーのストライプのネクタイも、黒の革鞄も身につけていない。
その代わり、日に透けると淡く光る栗色の毛に、お洒落なTシャツとデニムとPORTERの黒の鞄を背負っている。



顧問の先生と雑談している陽介先輩を横目に、私はまた、紙に向き合う。ちょうど、文化祭に書道部として出す、自由課題の作品の構成を考えているところだった。


「んんー〜…」

自由と言われると悩む癖。
昔から、言われてきたことは素直にするけれど、何をしても良いよと言われると困ってしまう性格なのだ。

筆を片手に考えていると、突然ぐいっと髪の毛を後ろに引かれた。