「いたたっ」

すると、突然セイラが頭を押さえた。

「どうしたの?」

「偏頭痛みたい。最近、頭が痛くなることが多くて。鎮痛剤を飲めばおさまるんだけどね」

セイラはバッグの中をガサゴソと漁る。

「あれっ、ないなぁ……」

困ったように呟きながら必死に薬を探すセイラ。

「ていうか、昨日鎮痛剤終わったって言ってなかった?」

「……そうだっけ?全然覚えてないや」

困惑したように呟くセイラ。

「ちょっと、大丈夫~?昨日買いに行くって慌ててたのに」

「あははっ、最近物忘れが激しくて」

「ヤバすぎ!」

「だよねぇ」

セイラのあまりの天然に呆れる。

「あっ、てかこの後移動教室じゃなかった?早くいかないと間に合わないよね」

「そうだね」

すっかり忘れていたけど、物理室に集まるように言われていたんだ。

ハッとして教科書とノートを掴んで立ち上がる。

「薬は飲まなくて大丈夫?」

「うん。まだ我慢できるから」

「じゃあ、行こう!」

あたし達はそろって教室を後にした。

物理室は階段を下りた渡り廊下の先にある。

教科書を抱えたまま駆け足で階段を降りようとしたとき、ふと階段を上がってきた人影に気が付いた。

「清水君――!」

セイラの嬉しそうな声がする。

あたしの視線はハルトに注がれていた。

そしてまた、ハルトの視線も自分に注がれているように思えた。

ほんの一瞬だったけど、確実に目が合った。

ダメだ。やっぱりあたし、ハルトが好き。

そう思った瞬間、ぐらりと体が揺れた。