「神条、ちょっといい?」

そのとき、斜め後ろから聞き覚えのある声が落ちてきた。

振り返らなくてもわかる愛おしい人の声。

いつも『真子』ってあたしの名前を呼ぶ少しかすれた低い声。

でも呼んだのはあたしの名前じゃなかった。

「あっ、うん。ちょっといってくるね」

名前を呼ばれてほんのりと頬を赤らめたセイラが席を立ち、揃って教室から出て行く。

その後ろ姿を見つめていると、二人を応援しようとしていた気持ちがしぼんでいく様な気がした。

それはまるで空気の抜けた風船のよう。

応援なんて本当はしたくない!あたしのほうがハルトのことを好き!

そう主張してしまいたくなる。

……ダメ。こんなこと考えちゃダメ!

セイラにも失礼だ。

あたしってば一体何考えてんの!?

自分自身を戒めていると、ポンッと肩を叩かれた。

振り返るとそこにいたのは蘭だった。

「ちょっと~、真子ってば!あれなんなの~?」

「あれってなにが」

「セイラとハルト君のこと~!」

「あの二人、付き合いだしたんだって」

「え?」

「だから、ハルトとセイラ付き合ってんの」

そう言った瞬間、蘭が「えーーーーー!」と絶叫した。