「セイラ……本当によかったの?」

店を出て何事もなかったかのように歩くセイラにそっと声をかける。

「何が?」

「ミスコン」

「いいの。最初からああいうの苦手だって分かってたから。それに、目立つことが嫌いなの真子だってよく知ってるでしょ?」

「知ってるけど……景品だってもらえるんだよ?」

お金持ちのセイラが喜ぶような景品ではないかもしれないけれど。

「そんなのいらない。人のことを見下してゲラゲラ下品に笑うああいう先輩が主催したミスコンには死んでも出たくないもの」

「セイラが毒づくなんて珍しいね」

数年の付き合いの中でセイラが人の悪口を言ったのを初めて聞いた気がする。

「そう?だって、頭にきちゃったから」

「でも……あの先輩たちって怖いって有名だよね……。大丈夫かな?」

「大丈夫。もしなにかされたら、そのときはやり返すから」

「ちょっ、セイラってば!今日はどうしちゃったの~?」

「たまにはいいでしょ?」

「そうだね。セイラ、ありがとう」

心からの感謝の気持ちを込めてお礼を言うと、セイラは何も言わずに小さくうなずきながら微笑んでくれた。

セイラには勝てないな。

見た目だけじゃなく、心までも美しい。

誰もがセイラに目を惹かれ、心を奪われる。

こんな親友がいる自分が誇らしい。

それを今日、あたしは更に実感した。

でも、なぜだろう。100パーセント素直に喜べないのは。

心のどこかでセイラに対していら立ちを覚えてしまっている。

ミスコン担当の先輩が隣の席にいるって……気付いてなかったの?

もし、気付いていたんだとしたら……――。

そこまで考えて『ありえない』と思い直す。

セイラに限ってそんなことするはずがない。

――この時のあたしは確かにそう思っていた。