風に流され、鉄のような血の匂いが再び鼻に届く。

むせかえってしまいそうなほど生ぬるく恐ろしいその匂い。

手のひらにべったりとついたセイラの両親の真っ赤な鮮血。

高層階から真っ逆さまに落ち、地面にたたきつけられたセイラ。

頭は割れ、スイカのように脳みそが飛び出しているだろう。

「やだ、やだ、やだ、やだ」

脳内で何か物音がする。

耳元で聞こえると不快になるあの蚊の羽音のような不思議な音。

その音のあとに、聞こえてきたのは人の声だった。

――お前がコロシタ。お前がコロシタ。お前がコロシタ。

「やめて、聞きたくない!やめてよ!!」

耳を両手で覆ってもその声は絶え間なく続く。