「セイラ……もしかして知らなかったの?先輩の女癖の悪さって校内じゃ有名だよ?あたしも校舎の裏手で先輩が女の子とキスしてるの見たことあるし」

根も葉もないこと。口から出まかせを言っただけ。

「そんな……まさか……」

表情をこわばらせてジッと考え込むセイラ。

嘘だよ、そんなの。でも、あたし以外に友達のいないセイラにそんなことを教えてくれる人なんて誰もいないんだから。

「本当だよ?あたしはやめたほうがいいと思う。傷付くのはセイラだよ?」

「でも、怜音先輩はそんな風に見えなかったよ……?」

「誰だって裏の顔と表の顔を持ってるんだよ。セイラが見たのが表の顔だっただけじゃない?」

「真子が私の心配をしてくれてるのは分かるよ。ありがとう。でも、私は誰が何と言っても怜音先輩のことを信じてみたい」

「へぇ……。親友のあたしより、怜音先輩を信じるんだ?」

「違うよ!そういうんじゃないの……!ただ――」

「――だったら、勝手にしたらいいんじゃないの!?」

「真子――!!」

勢いよく立ち上がったあたしを追いかけようとするセイラ。

「ついてこないで!!セイラはもうあたしの親友なんかじゃないから」

吐き捨てるように言うと、セイラの唇が小刻みに震えた。

「真子……ごめんね……」

か細い声で謝るセイラに背中を向けると、歩き出す。

背中にはセイラのすすり泣く声。

心臓がドクンと波打つ。

ああ、気持ちいい。

背中に羽が生えたみたい。今なら天にまで昇れそう。

体が震えそうなほどの喜びに耐えられず、あたしは屋上の扉を後ろ手に占めると笑った。


「あはははは!ざまあみろ!」

笑いすぎて涙が溢れる。ああ、こんなことならもっと早くこうすればよかった。

セイラを傷つけたことより、そっちの後悔の方がずっと大きかった。