「……もういいよ、僕がそっちに行くから」



そっか、もういいか……って、えっ?



私が動けないでいると、結城くんが身体を起こして立ち上がった。



そうかと思えば私の隣に来て、太い木の幹に寄りかかりながら腰を下ろす。



大嫌いな王子様とはいえ、結城くんだって男の子。



今まで恋をしたことがなく、もちろん手を繋いだり、隣に並ぶなんてこともほとんどなかった私にとって、今の状況には混乱を隠せない。



周りの音が聞こえないくらい、自分の心臓の音がうるさい。



止まれ、止まれ!そう心の中で唱えても、この胸のドキドキは収まることを知らない。



「なに、どうしたの?」



何も喋らない私を心配したのか、結城くんに顔を覗き込まれる。



そのせいで更に鼓動が速まり、身体の熱も増す。



「な、何でもないっ……」



「僕にドキドキしてるんだ?」



「なっ、なっ……」



エサを求める魚かのように、口をパクパクとしてしまう私。



恥ずかしいけれど、頭の中はパニックでどうにもならない。



大嫌いな王子様になんかドキドキするわけないと反論したいのに、それが出来ない。



そして、それもまた事実だということ。



「ふーん、図星ね。可愛いじゃん、須藤さん」



「……っ」



いつも教室で見せている笑顔とは違う。



結城くん自身も気づいているのかどうなのか……自然な笑顔を見せた王子に、迂闊にもまたドキッとしてしまった。