その手を、私はぎゅっと掴んだ。





「ありがとう、李樹。助けてに来てくれて」



椎名、とは呼びたくなかった。




そんな私に、李樹は引きつりながらも笑みを浮かべてくれる。






父様、母様、そして賢木は、そのまま部屋を出て行った。





「信じてたわ。絶対李樹は必ず来てくれるって」

「お嬢様…」

「ダメ。彩葉って呼んで。敬語も禁止」



ムッとする私に、李樹は小さく息を吐く。




のに。



「…すみません。今日は、勘弁させてください」



今日の李樹は、断固として私の名前を呼ぼうとはしなかった。





「…なんで?」


そう聞く私の膝の上で、黒猫ちゃんがにゃあと鳴く。




「旦那様はああ言ってくださいましたが、元はと言えば俺がお嬢様から離れたことが原因で起こったこと。今はお嬢様の恋人役をやる資格がありません」

「……っ」



息が、苦しかった。