午後18時。

部活が終わり、いつものように解散する古典研究部。

業吉先輩と紫ちゃんと一緒に下駄箱まで来た私は、ふいに足を止める。

まだ部室にいるのかな、雅臣先輩。

いつも戸締りをして、鍵を返すのは部長である彼の仕事。

どんなに待ってると言っても、悪いからと私達を先に返そうとする。

また、雅臣先輩と一緒に帰りたいな……。

晴れてるから自転車だろうけれど、途中まで一緒に帰れないかな。

そう思い立った私は、脱いだ上履きをもう一度履く。


「どうした清奈、ボケたか。また上履き履いてるぞ」


私の足元を見て、業吉先輩が呆れた顔をする。

私は「違いますよ!」と軽くその腕を叩いて、屈んだ拍子にずり落ちた鞄の取っ手を肩に掛け直した。


「私、やっぱり雅臣先輩を待つ事にします!」

「え、清奈ちゃん!?」


紫ちゃんの呼び止める声も待たずに、私は職員室まで走る。

そこにいなかったら、部室をあたるつもりだ。


「ふうーっ」


階段を上がり、2階にある職員室前の廊下にたどり着く。

そこから息を整えるために、走るのをやめて歩く事にした。

少しして、人気のない茜色に照らされた職員室の前に、雅臣先輩と小町先生が立っているのを見つける。


「雅臣先ぱ──」


そう声をかけようとした時だった。


「景臣(かげおみ)君」


……え?

小町先生が、知らない人の名前を呼んだ。

しかし、周りには私以外に人がいない。

という事は、雅臣先輩を見てそう呼んだって事?

呼び方を間違っちゃっただけかな、と私は早鐘を打ち始める心臓を鎮めようと胸に手を当てる。