「ぜ、絶対に離婚してやる〜」
私の決意のこもった叫びを、光一さんは軽くあしらう。
「はいはい、頑張って。なんなら、優秀な弁護士を紹介しようか？残念ながら既婚者だから、再婚相手にはならないけどな」
「‥‥な、なんでここまでーー」
たしかに、顔と収入に魅力を感じて結婚した。そこは潔く認めよう。私が馬鹿でした、ごめんなさい。でも、私の罪はたかがそれだけじゃない。こんな親の仇かってほど虐められるのはおかしくないですか⁉︎

「それはさーー」
光一さんは私の顎をくいっと持ち上げると、吐息がかかるほどに距離を縮めた。
こんな状況でも、一瞬ドキっとしてしまう自分の単純さが恨めしい。
「華の反応が想像以上に楽しいから。俺、意外とSなのかも」
「は⁉︎」
「さっきの、俺をひっぱたいたときの悔しそうな顔はちょっとゾクゾクしたな。付き合ってた頃のいかにもな愛想笑いより、ずっとそそられた」
「‥‥叩かれて嬉しいって、それどちらかというとMなんじゃ」
「ははっ。ーーじゃあさ、試してみようか？」
そう言って、光一さんは挑むような目で私を見つめた。彼の親指が私の唇を割る。もう片方の手が首筋に回った瞬間、私はびくりと体を硬くした。光一さんの発する濃密な色香に酔わされる。
「ーーっ。だめ、絶対惑わされないんだから。結論が出るまで、接触禁止でお願いします！」
はっと我に返った私は、彼を思い切り押しのけた。
「同じベッドで寝たいなって、ねだってきたのは華の方じゃん」
「べ、別にあれはそういう卑猥な意味で言ったわけじゃあ」
「ぷっ。卑猥って‥‥中学生か」
光一さんはいまだかつて見たことないほど無邪気な顔で、ケラケラと笑った。
中学生はどっちよ‥‥。
「と、とにかく、私はもう部屋に戻ります！」
「はいはい。あ、カレーはいいの？」
光一さんの質問を完全無視して、私は逃げるように部屋へ駆け込んだ。