「よ、要するに、妻としては愛せないけど、ルームメイトとして仲良くしようって‥‥そういうこと?」
「そう、大正解。理解が早くて助かるよ」
光一さんは目を細めて、にっこりと笑った。その蕩けるような甘い微笑みが逆に恐ろしい。
「は、早くない。ちっとも理解できてないから!そんな素早く頭を切り替えられるほど器用じゃないし‥‥」

「ーーなら仕方ないな」
光一さんは小さくため息をつくと、私の背中に腕を回して、ぐいっと力強く引き寄せた。
「きゃっ」
不意うちをくらった私は、そのまま光一さんの胸に顔を埋める形になった。ふわりと鼻を掠めるのは、光一さんの愛用するフレグランスの香り。ほろ苦くて、どこか官能的で‥‥あまり光一さんらしくないと思っていたけれど、いまの彼にはぴったりだ。
光一さんは私の耳元に頬を寄せ、低くささやいた。思わず背筋がぞくりとするほど、その声音は色っぽい。
「ーー愛してるよ、華」
「えっ‥‥」
愛を告げたばかりのその唇が私の唇を塞ぐ。永遠を誓ったあの時と、なにも変わらない甘い甘いキス。

‥‥この一週間は全部、悪い夢だったんだろうか。幸せすぎる私へ、神様がくれたちょっとしたスパイスだったとか?
一瞬は本気でそう思った。けれど、悪魔が私の淡い期待をあっさりと打ち砕いていく。
「‥‥これでどう?いいよ、華が望むなら幸せな恋人ごっこを続けても」
勢いよく顔をあげた私の目に飛び込んできたのは、彼の冷めた瞳。

ーーパァン。

考えるより先に体が動いていた。誰かを叩いたのなんて、これが初めて。叩く方の手も痛むって、よく聞くけど、本当だったんだ。
叩かれた頬に手を当てて、光一さんは少し顔をしかめた。

「‥‥ば、馬鹿にしないでよ。私にだって、プライドくらいあるんだから」
怒りで声が小刻みに震える。